『死んでいい人なんて、いないんだ』ー
「守られなかった」ではなく「護られなかった」である。
震災で心に傷を負った人々が、さらに生活保護行政をめぐって新たな傷を負う、その重みに粛然とした一作だった。
また、生活保護行政の抱えるジレンマにも考えさせられた。「原理原則」という仕組み。
それが登場人物たちの運命を分けた。
『不埒な1%』の存在によって生活保護に偏見を抱いている人も多い。しかし、本当に困っている人たちを救うためのセイフティーネットとしての仕組みにこれほどの複雑な事情があることを、私も初めて知った。いけないことと知っていながら娘のために働いていた受給者もいた。本当に難しい問題である。
予備知識なしで見たので、完全にミスリードした。佐藤健が犯人だ、と思っていたら、まさかの清原果耶だったとは。
清原果耶演じるカンちゃんは、震災と、相談員に裏切られた思いで思い詰めたのだろう。
ただ、それで同僚・上司をああも残酷なやり方で殺めるに至るまでの動機がやや弱かった気がした。
永山瑛太の、相談員としての冷酷とも思える仕事ぶりと、津波で倒れた無縁仏の墓石を黙々と直す二面性に、考えさせられるものがあった。善悪では分けられない、この映画の登場人物たちを象徴していると思える。
佐藤健が最後に「黄色いジャケットを着た男の子を助けられなかった」と告白すると、阿部寛が「ありがとう」と言う。
その時息子の遺品である腕時計が時報を鳴らす。『ありがとう』と言っているかのように。
「笑顔でいればみんな優しくしてくれるから」と倍賞美津子が言う。その通りだと思う。だからこそ彼女が「護られなかった」のを残念に思う。
有名な俳優が数多く出演していて、しかも無駄がない。
佐藤健、阿部寛の演技力はもちろん、当時まだ10代だった清原果耶の、女子高生から20代半ばまでの役を演じた力量も特筆すべきところ。