「チェンソーマン」で有名な、藤本タツキ氏の短編マンガをアニメ化。
ほんの1時間弱しかない。が! これは必見の名作!!
入場特典でコミックが配られていて、上映開始前にネタバレをくらった。
しかし、まったくのノーダメージだったのがこの映画のすごいところ。
藤野という小学4年生の少女が、自室の机に向かってうんうん唸りながら4コママンガを描いている背中(バック)から始まる。彼女は学年新聞の4コママンガを担当しているのだ。
教室でみんなにウケて、「5分で描いた」としれっと言う藤野。
「面白い!」「将来は漫画家?」「スポーツも得意だしね、そっち方面もあり?」「どっちにしても、サインしてよ」とクラスメートからちやほやされる。
しかし、隣のクラスの不登校の少女、京本の圧倒的な画力に打ちのめされる。
「藤野の絵がふつうに見えてきた」と隣の席の少年が言う。プライドを傷つけられた彼女。
しかし藤野は、京本に負けまいとがぜん努力を始める。
(ルーミス著「やさしい人物画」(マール社)を小4の少女が買うか!?、とツッコミをいれた。)
季節が変わっても、家族が楽しげにテレビを見ていても、ひとりスケッチブックと格闘する藤野の背中(バック)。背景(バック)のみが時間の移り変わりを表す。
しかし2年後、6年生になったとき、「京本には勝てない」、といったんはマンガをあきらめるのだった。
卒業時に、担任から京本に卒業証書を届けるよう頼まれ、しぶしぶ行く。
京本の家の廊下には、何百冊ものスケッチブックが積んであった。彼女は藤野の何倍も努力していたのだ。
それがくやしくて、茶化すような4コママンガを即興で描く。
手が滑って、マンガの短冊が京本の部屋のドアのすき間に入ってしまう。
逃げるように家を出た藤野を、京本が「先生!」と追いかけてくる。
彼女は、藤野の学年新聞マンガの大ファンだったのだ。
どてらの背中(バック)にサインをせがむ京本。
『自分よりも圧倒的に上手い』と思い込んでいた相手から思いもかけずほめられることで、またやる気を出す藤野。
雨のなか、ダンスするようにあぜ道を駆け抜ける藤野の絵面の爽快さといったら!
びしょぬれのまま部屋にこもり、彼女はまた描き始める…。
ふたりは「藤野キョウ」というペンネームで、ストーリーと人物を藤野、背景(バック)を京本というように分担してマンガを描き始める。
「中学生でこれ描いたの!? すごいじゃん!」と編集者にほめられ、さらに100万円の賞金まで手にして、有頂天になるふたり。
その金で市街へ繰り出して、映画を見たりクレープを食べたりハンバーガーショップで親しげに会話する。
引きこもりの京本にとって、自分の手を引いて振り向く(ルックバック)藤野は、とても輝いて見えた。
しかし、その手は徐々に離れ…。
高校卒業時に、編集者から連載のオファーが来る。
京本はここに来て「手伝えない」と言い始める。美大に進んで、もっともっと絵が上手くなりたい、と告白する。
彼女のコミュ症とたぐいまれな才能を誰よりも知っている藤野は、京本をつなぎとめようとするが、彼女の決意は固かった。藤野にいつまでも頼らず、自立したかったのだ。
藤野は市街地に出て、アシスタントを雇い、ワコムの大型液タブを前にマンガをぐりぐりと描き続け、「シャークキック」なる単行本をどんどん連載し続ける。
そこに、思いもかけぬテレビニュースが…。
この作品は、2011年の東日本大震災と、2019年に発生した京都アニメーションスタジオ放火事件へのやるせなさと犠牲者の追悼を込めて描かれたものである。
もしあんなことが起きず、貴重な人命が失われなかったら?、とは誰もが想像することだろう。
藤野も同じだった。
「もし、私が京本を部屋から引きずり出さなかったら? あの子は死なずにすんだかもしれない」
藤野の想像力が羽ばたく。
「マンガをあきらめ、姉に誘われた空手を習っていたら、京本を助けられたのに」という妄想(ルックバック)。
ここから、現実と藤野の妄想とが渾然一体となってくる。私もだまされかけた。
京本の死は厳然たる事実だった。
しかし、誰もいないはずの京本の部屋から、藤野に助けられたことを描いた4コママンガがひらりとすべりだす。
不思議。あの4コマの短冊は何だったのだろう…?
藤野が部屋に入ると、「シャークキック」の全巻が複数冊(観賞用・布教用・保存用か?)本棚にしまってあり、アンケートハガキを出そうとしていた形跡すらあった。
ふとドアの方を振り向く(ルックバック)と、京本のどてらが掛けてあった。背(バック)には藤野の大きなサイン入り。
『マンガなんて大変だよ、描くものじゃないよ、読んでれば充分だよ』
『なら、藤野さんは何で描いてるの?』
…ふたりで楽しげにマンガを描いているだけで幸せだった、子供のころの回想(ルックバック)。
仕事場に戻り、4コママンガを正面の窓に貼り付けて、黙々と仕事を再開する藤野の背(バック)…。
エンドロールが流れる。
「彼が3人いればどんなアニメも作れる」と名高いアニメーター、井上俊之。
スタジオジブリの数多くの作品で背景を描いた巨匠、男鹿和雄。
彼ら作画家たちの名が、主役の声を務めた河合優実と吉田美月喜よりも先にクレジットされる。
haruka nakamura作曲、urara歌唱のエンディング曲が泣かせる。
そして、今回の大立役者、監督・脚本・キャラクターデザインの三役を務めた押山清高の名が最後に現れる。
7月9日11:35~、広島バルト11、11番シアター。
平日の昼間なのに、席は半分以上埋まっていた。
感動のあまり、私はしばらくイスから立ち上がれなかった。
見間違いなら申し訳ないが、製作にAmazonが入っているようだ。
ということは、近いうちにAmazon Prime Videoに来る。その際は必見。
いや、きっとBlu-rayを買うだろうな、私は…。