●あらすじ:
人が電脳化・義体化することが珍しくなくなった近未来。巨大企業ハンカ・ロボティクス社は政府の要請により脳以外は全身義体の兵士を作る計画「プロジェクト2571」を進めていた。その最初の完成体であるミラは公安9課で少佐と呼ばれ、高い戦闘能力によって9課を率いていた。ある日、クゼと名乗る謎の男によるハッキングでハンカ社の技術者が相次いで殺害される事件が発生する。クゼは「ハンカと組めばお前たちは破滅する」との謎のメッセージを残していく。記憶のバグに悩まされつつクゼを追う少佐と9課だが、そこに待ち構えていた罠とは…。
●主な登場人物:
・少佐/ミラ(スカーレット・ヨハンソン)…襲撃された難民ボートから救われ、脳以外を完全な「義体」にされた。「公安9課」にて「少佐」と呼ばれ部隊を率いる。記憶のバグに悩まされている。
・バトー(ピルウ・アスベック)…義眼の巨漢。義体のパワーを生かし格闘戦などで活躍する。少佐とはつかず離れずの仲。
・荒巻(ビートたけし)…公安9課の課長。冷静な判断力と政治力で9課に指示を下す。
・クゼ(マイケル・カルメン・ピット)…高度な「電脳」ハッキング技術を操り、ハンカ社の技術者たちを殺害していくテロリスト。少佐に強い興味を抱いている。
・オウレイ博士(ジュリエット・ビノシュ)…ハンカ社の技術者。少佐の身体を作ったひとり。
・カッター(ピーター・フェルディナンド)…ハンカ社の社長。政府の要請により完全義体化戦士を開発し、その第1号として少佐を9課へ送り込んだが…。
・トグサ(チン・ハン)…9課の一員。電脳化はしているが身体は生身という9課では珍しい存在。
●用語:
・義体…人体の一部を金属や人工筋肉などで補った身体。肉体の寿命や頑強さが飛躍的に高まる。四肢や内臓だけ置換した者もいれば、少佐のように全身を義体化した者もいる。ハンカ社は義体の総合開発会社である。
・電脳…脳にデバイスをつなぎ外部との通信を可能にした状態。ネットを介して外部記憶にアクセスしたり、無線機なしで他者と会話ができる。
・公安9課…総理直属の組織で対テロ活動の実働部隊。情報戦と荒事が得意。
●感想:
SF好きなら知らない人はいない士郎正宗原作コミック「攻殻機動隊」のアニメ化作品「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(1995年、日本)をベースとした実写化作品である。ただし、TVアニメ版「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」(2002年~)や映画「イノセンス」(2006年)の要素も多少取り入れられており、言ってみれば「攻殻機動隊」という作品総体のオマージュと言っていい出来に仕上がっている。具体的には、少佐を演じるヨハンソンや荒巻課長を演じるビートたけし、それにバトーを演じるアスベックはアニメの容姿をコピーしたかのようにキャスティングされたと思われるし、1995年版「攻殻機動隊」でのキーワード「プロジェクト2501」は「2571」と数字を変えて出ており、クゼというテロリストは「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX 2nd G.I.G」の登場人物であり、バトーの犬好きなところは「イノセンス」からの引用である。
さて、この作品を評価するとなると、一部は大変微妙だと言わざるを得ない。香港や上海の高層ビル群や雑然とした街路を撮り入れ、悪い意味のハリウッド・テイストを消しているのはよい(製作にはドリームワークスが入っている)のだが、正直1995年版アニメの方が無国籍さが徹底されていて良かった。また、荒巻課長役としてのビートたけしの起用には疑問を抱かざるを得ない。滑舌の悪さと、彼自身の監督主演作品と同じような銃使いの振る舞いは、「攻殻機動隊」という作品のクールさに合っていないと思う。これなら荒巻役にはもっとしゃっきりした別の俳優をキャスティングした方がよかったと思った。
とはいえ、いいところもある。巨大な廃ビルの間の水たまりを男が逃亡し、その上空に鳥のような不気味な飛行機が飛び、水上で少佐が男を叩き伏せるシーンは、1995年版そのままでニヤリとさせられる。また、少佐の「ミラ」としての記憶はハンカ社が植え付けたニセのもので、実は少佐はクゼと以前恋仲だったが二人ともハンカ社に連れ去られプロジェクト2571のために身体を実験台に使われ、記憶を消されていたというオリジナル部分も、このような社会設定であればありそうなことだとうなずけるものだった。クゼと少佐がハンカ社に空中から狙撃される部分は、これまた1995年版のオマージュである。
少佐はオーレイ博士の犠牲により自分の本当の記憶を呼び覚ます。カッター社長は、少佐狙撃の罪を問われて荒巻に射殺される。「草薙素子」という名の刻まれた自分の墓のそばで、生き別れた母親と抱き合う少佐。(母親役は我々の年代には懐かしい桃井かおりである。) そして9課には次なる新たな命令が下るのであった。「攻殻機動隊」ではもうおなじみの、ビルの屋上から急降下し光学迷彩で姿を隠す少佐のシーンで、この映画は終わる。
全体として「まあよく作ったご苦労様」というのが感想である。そして、これを見た後はもしできれば日本で作られたアニメ版「攻殻機動隊」も見てほしい、と言いたいところである。また、日本語吹き替え版ではアニメ版の声優がそのまま演じているので、そちらを見るのもお勧めである。
- 2017年、アメリカ
- 監督:ルパート・サンダース