おそるべし!熱い中国のアニメ「羅小黒戦記」

アニメ
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●あらすじ:
緑深い森の中で平和に暮らしていた黒猫の妖精シャオヘイ。だが、ある日人間による開発の手が入り、そこを追いやられてしまう。村や街を放浪するシャオヘイを拾ったのは、木を操る妖精のフーシー。彼はシャオヘイを故郷によく似た島へ招待し、「ここに住まないか」と誘う。喜んだのもつかの間、人間でありながら最強の「執行人」(問題を起こした妖精を捕獲し連れて行く役目の者)と呼ばれるムゲンがフーシーを捕らえに現れ、戦いの中、シャオヘイはフーシー達とはぐれてしまった。
ムゲンはいかだを作りシャオヘイを乗せ、大海原へ発つ。激しい反抗にも疲れてきた頃、シャオヘイはムゲンの「霊域」に招かれる。そして霊域は全ての生き物が持っていること、自分にムゲンと同じ金属の属性があることを知らされる。金属を扱う術を学ばないか、とムゲンに言われ、「うまくすれば逃げられるかも」と学び、たちまちその才能を開花させるシャオヘイ。
とある海岸にたどり着いた二人は、陸路龍遊市を目指す。隙あらば逃げ出そうとするシャオヘイを、ムゲンはそのたび捕まえる。彼はシャオヘイを妖精達が平和に暮らし人間との共存を目指す拠点「館(やかた)」に連れて行きたかったのだった。そして彼はシャオヘイに「お前は『領界』を持っている」と教える。領界の中では全ての霊域を操ることができる神に等しい力が得られるという。また、シャオヘイは途中で出会った他の執行人から「フーシーは悪い奴ではないが人間を憎みすぎる」と聞かされる。初めて食べる人間の美味しい料理、バイクの旅、ホテル…。「フーシーは悪い奴じゃない! あんたもね…いい人でもないけどさ!」。
一方、シャオヘイを取り戻したいフーシーは他の妖精を襲い「強奪」の能力でその力を奪い取っていた。そして仲間の協力を得て二人が龍遊市へ向かうことを察知し、先回りする。
人口1,000万人、そして「決して人間には知られない」掟を守りつつ500人の妖精が住む大都市龍遊市。地下鉄に乗ろうとしたところでフーシーの仲間がシャオヘイを奪う。地下鉄車両の内と外での戦いはムゲンの勝利で簡単に決着が付き、そのまま館からの迎えを待つことにしたが、今度はフーシーが強奪した能力と仲間を携えて現れる。彼にシャオヘイをさらわれてしまったムゲンは他の執行人達に戦いの事後処理とフーシーの捜索を頼み、シャオヘイの行方を追って飛ぶ。
再会を喜ぶシャオヘイに、フーシーは「ここには元々俺たちの住んでいた森があった」と語り始める。森と妖精が共存していたある日、人間が入り込んだ、木を倒し家を建て、神をあがめる弱い人間達とはいい思い出もあった、しかし開発が進み森はどんどん荒らされていった、多くの妖精達がここを去り、館は人間との共存を選んだが、出て行くべきなのは人間の方だ…と。「分からないけど、僕には何だか間違っている気がする。人間が嫌いならかかわるのを止めてあの島のような場所で暮らそう?」と答えるシャオヘイを拘束し、「人間は侵略と破壊ばかりだ、すまない、お前の力が必要なんだ」と言いつつ強奪の能力を使うフーシー。フーシーの目的はシャオヘイの領界だったのだ。
駆けつけたムゲンによってシャオヘイは救われたが、領界を奪われたためその命は消えかかっていた。ショッピングモールの地下で領界を広げていくフーシーを止めようとムゲンが襲撃する。ふたりの戦いの最中に龍遊市中心部を飲み込むほど広がる半球状の黒い領界。その中で繰り広げられるムゲンとフーシーの死闘の行方は…。そしてシャオヘイの能力が覚醒する…!

©北京寒木春華動画技術有限会社

●解説・感想:
本作は、2011年からwebで公開されている連作短編アニメが元となっていて、当初はMTJJ監督のほぼ手弁当で制作されていた。現在bilibili動画にて番外編を含め50本ほどが公開されており、再生回数は3億回にのぼる。当然音声も字幕も中国語であるが、有志の日本語訳が付いたものがYouTubeで数本見られる。本作はその連作の4年前という設定で一から新しく作られたものである。
まず、2019年9月に、中国での公開とほぼ同時に日本でも上映された。これは在日中国人向けのいわばビジネス的実験であって、申し訳程度の日本語字幕をつけてごく少数の映画館で始まったのだが、これを観た主にアニメ業界人がSNSを介し評判を広げ、次第に客席のほとんどを日本人が占めるようになった。1週間後の座席指定すら満席になったという話もある。その根強いヒットを基に日本のアニメ製作・配給会社が日本語吹き替え版を作り、2020年11月に全国132館で公開したのが「~ぼくが選ぶ未来」である。
子供の姿にも化け物にも変身できる可愛らしい子猫の妖精「小黒(シャオヘイ)」の「小」とは「~ちゃん」程度の意味なので、日本語では「クロちゃん」という名前と思ってよかろう。(「羅」はweb版でシャオヘイを拾った少女の名字。)
私は日本語吹き替え版の予告を観て興味を持ち、舞台挨拶付きの初日に観に行った。
まず、映像クォリティが非常に高いことに驚いた。目が回りそうな激しい戦闘シーンだけでなく、日常的な何気ない動きの描き方がとても丁寧なのである。落下していくシャオヘイをムゲンが襟をつかんでキャッチし、パッパッと服の乱れを直してやる仕草など、とても微笑ましい。キャラクターはシンプルな線で描き、ほとんど影を付けない独特の画風、そして美しい背景、使うべきところに効果的に使用されている3DCG。実は現在世界的にはディズニーやピクサーを代表に(また中国も例に漏れず)3Dアニメが流行っているのだが、日本では相変わらず「君の名は。」「鬼滅の刃 無限列車編」「劇場版呪術廻戦0」など2Dアニメが大ヒットしている。それらと同じ2Dの土俵上にあり、絵的に全く遜色のない本作が中国で生まれたのは驚異だ。当然向こうの制作者はジブリ作品を始め日本アニメの大ファンで、それらが画風に影響を与えているのだろうと思うと、こちら側の日本アニメファンとしては感慨深い。これがたった50人ほどの、しかも美術学校を出たての人を含む若手ばかりで作られたと言うのだから、すごい。
作画だけではない。ムゲンや、龍遊市で花の配達をする花の妖精に代表される「人間と妖精との共存」の思想には、おそらくアジア圏の多神教文化が色濃く反映されている。ナタという非常に強い執行人が終盤に登場するが、このキャラクターは中国ではフリー素材と言っていいほど一般化し民衆にあがめられている神が原型であることからしてそうであろうと考える。ムゲンとシャオヘイとの戦いに敗れたフーシーは、自らの姿を森に変えた。自然と人間は共存できるのか、それとも対立し一方が消滅するべきなのか、という普遍的でスケールの大きなテーマに対し、フーシーの最期を提示して一つの回答を破綻なく描いている。共存を選択したシャオヘイがムゲンに「フーシーは悪い人だったの?」と問うと、「お前の中にちゃんと答えがあるんだろ」と答えがある。そう、どちらも悪くない。私たちに必要なのは、互いを認め合うことなのだ。(森と化したフーシーは公園になった、との公式のコメントがある。)
しかし、やはりフーシーの「死ねーっ!」は私にはダメだった。強い覚悟の表れとはいえ、それはシャオヘイに対しては言って欲しくなかった。最後に発した言葉「シャオヘイ、ごめん」には泣けるが。
館には住まず別れを告げて去るムゲンにシャオヘイが「師匠! 僕、一緒にいてもいいですか!?」と叫ぶラストもいい。抱きつくシャオヘイをしっかり受け止めるムゲン。いい師弟関係になってくれることだろう。
のんびりした田舎が続くかと思うと、ムゲンや妖精たちが人間同様スマホを活用していたり、地下鉄の構内に金属探知機が備わっていたりと、中国国内の風景が垣間見られるのも面白い。
また、中国人のツボにははまるらしいギャグも我々には新鮮に見える。日本人が作ったら時代遅れと言われるものかもしれないが。
中国語原語と日本人声優の吹き替えを聞き比べると、どちらも違和感なく合っていて素晴らしい。
日本語字幕には、「初期字幕」と、日本人から分かりづらいと指摘され作り直された「通常字幕」と、日本語吹き替え版が公開された後にもう一度作られた「最新字幕」の3種類があり、バリアフリー日本語字幕と合わせて4種類の字幕が完全生産限定版Blu-rayには収められている。吹き替えとはニュアンスが微妙に違っており、見比べ聞き比べるのも一興である。
MTJJ監督は「続編を制作中」と明言しているので、それを見られる日が来るのが楽しみだ。

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